大判例

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山口地方裁判所徳山支部 平成2年(ワ)151号 判決

原告

綿屋浩

右訴訟代理人弁護士

吉川五男

中村覚

被告

山口県

右代表者知事

平井龍

右訴訟代理人弁護士

弘田公

事実及び理由

第三 判断

一  争点1について

被告山口県は、その設営する高校という場においてする教育の一環としての課外活動に従事する生徒との間において、同活動から生ずるおそれのある危険から生徒を保護するため十分な措置を講ずるべき義務を負っていると解され、高校の教師が右義務に違反する行為をし、その結果生徒に損害を被らせたときは、被告自身が国家賠償法一条の責任を負うものというべく、本件課外活動としての野球部の練習の場合も、その例外ではないといわなければならない。

ところで、右野球の練習は硬質の球を投捕し或いは打撃するもので、本来的に危険を内在するものであるから、その扱いには危険を避けるための厳格なルールを定め、かつ、これを守らせるため深甚の注意を払う必要があるところ、〔証拠略〕によれば、本件事故が発生した際の、ティーバッティングのやり方自体は、これに従事する生徒が一六才から一八才という年長者で相当の分別を備えており、体格、運動能力も成人に近い成長段階にあることからみて危険防止措置に欠けるところはなかったということができる。

本件事故は、トスされた球をバットで強振したことによるものであることを認めるに足りる証拠はない。

しかしながら、前掲証拠によると、前記機械科棟二号館二階で行なわれたティーバッティングのこぼれ球が、階段手摺等に跳ね返り、一階で行われていたティーバッティングのバットのスイング域に入り込んでくる場合があることが認められる。

この不意に侵入した球が振られたバットに当たる確率は経験則上極めて低いと考えられるが、右証拠によれば、その危険性があること自体は否定することができず、現場に立ち会う者にとってはこれを予見することは十分可能であったことが認められ(検証の際、右確率は低いものの、その危険性はあることが感ぜられた。)、反面において、二階から球がこぼれ落ちないような措置を講ずることは容易であったことが認められる。

そして、本件事故は、他にこれを引き起こす原因が見当たらない以上、この落下球によって引き起こされたものと認めるほかはなく、証人小林誠の証言を合わせ考えると、同人がトスされた球を打ち、振り切り終わる前のバットに、右跳ね返り飛来した落下球が当たって原告の方へ飛び、本件事故を生じたことが認められる。

本件の場合、前記野球部の監督、コーチらは、前記ティーバッティングの手順が従前から定まっていて部員生徒がこれを熟知していたうえ、それ自体には危険性がないと信じていたため、雨天の場合の練習には殆ど立ち会わない慣行になっていたことが認められるが(〔証拠略〕)、前記のように硬質の球を扱うスポーツには危険がつきものであるから、これを完全に防止するため、練習環境の隅々にまで注意を行き届かせる視点をもって、練習に立ち会うことが基本的に要請されるというべく、こうしたことに今少し意を用いていれば、前記こぼれ球の危険性に気づくことができ、したがって本件事故は避けられたといわねばならない。

右監督、コーチらには、右安全な練習環境を保持し、危険の防止措置を講ずるべき義務を怠った過失があるというほかはない。

二  争点2について

原告は本件事故当時高校三年生であり、危険を予知し、これを避ける能力をそれなりにもっていたと考えられること、本件の場合のような練習にはいつも参加し経験を積んでいて、前記こぼれ球の落下状態にも気がついていたことが認められること(原告の供述)からみて、原告は注意していれば本件のような事故の発生を予見できたのに、漫然と前記危険な位置に佇んでいたため右事故に遭ったことが認められるから、本件事故発生につき原告にも落ち度があったというべく、その過失割合は、被告八に対し、原告二と認めるのが相当である。

三  争点3について

原告は、本件事故による負傷の結果、次の損害を被ったことが認められる。

1  慰謝料(〔略〕)

入通院時の分 六〇万円

後遺障害の分 八〇〇万円

2  逸失利益

これを認めるに足る証拠はない。

但し、〔証拠略〕によれば、原告は前記負傷に基づく後遺障害により、現在のところ収入の減少を来たしていることを認めるに足る証拠はないが、肉体的な能力の点では通常人に比べかなり低くなっていることは明らかで、長時間の労働に耐えられるかとか、将来も通常人同様の稼働が続けられるかという現在は賃金査定のうえで表面化していない悩みが常についてまわり、それがいつ現実化するかもしれない状況にあることが認められるので、この点は、前記慰謝料算定の際考慮することとした。

四  争点4について

原告は、本件事故による損害の填補として次の金員を受け取ったことが認められる。

1  治療費

これについては、原告が初めから請求していないから、考慮しないこととする。

2  障害見舞金

日本体育・学校健康センターからの分 三五〇万円

(〔証拠略〕)

公立高等学校PTA学校安全互助会からの分 一七六万円

(〔証拠略〕)

3  高等学校PTA学校安全互助会からの傷病見舞金 六万円

(〔証拠略〕)

五  そうすると、原告は本件事故に基づく損害賠償として、右三の損害合計額から四の損害填補額合計を控除した額三二八万円を請求することができることになるが、本訴訟のため必要とした弁護士費用は、右の額の約一割にあたる三二万円の限度で本件事故と相当因果開係のある損害と認める。

六  以上の次第で、原告の本訴請求は、右五の損害額合計三六〇万円とこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成二年一二月一四日から支払い済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余は失当として棄却することとする。

(裁判官 東修三)

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